滋賀県の病院で患者の人工呼吸器を外して殺害した殺人罪で服役していた西山美香さん。今日再審で無罪判決が言い渡されました。
無実と証明されてほんとよかったです。
だけどこれ、末恐ろしい事件ですよね。冤罪ですでに服役したわけですから。
12年も・・・
今40歳とのことなので、服役したのは20代後半から30代。女性にとってこれくらいの年齢は、出産・妊娠ができる限られた時期です。
その大事な時期を国の権力によって奪われるなんて・・・。
もちろん今は結婚しない人も多くてすべての女性が子どもを産むわけではないし、産むか産まないかは個人の自由。40代でも妊娠・出産できます。だけど高齢での出産はやはりリスクがあります。
国の権力によってその機会を強制的に奪われるのはあまりにもひどい。人生を奪っておいて、間違いでしたで済まされるんでしょうか。
ごめんで済んだらケーサツいらんわ!です。
この出来事で私がこわいなと思ったことは3つあります。
ひとつめは司法の問題。
この事件で思った怖いところ① 司法制度の問題
証拠になったのは「人工呼吸器をのチューブを外した」という自白のみで、しかも証言がコロコロ変わったり矛盾があってもおかまいなし。
この証言が成立するからには人工呼吸器が外れて亡くなったのだろうと予想しますが、どうやら証言があるのみで実際に人工呼吸器が外れていたのかどうかさえも不明なよう。
これはもう本当に衝撃です。
「人工呼吸器が外れたことが原因で死亡したのか」という大前提すらもわからないまま、自白だけで殺人罪が成立するなんて・・・。
司法って、自白だけで殺人罪が確定するほど曖昧なものなんだ・・・。
しかも痰がつまって低酸素、低カリウムによる不整脈が死因の可能性があるという重要な情報は隠ぺいされていたと。
警察が自分たちに都合のいい情報だけを取捨選択して事件のストーリーを一度組み立てたら、後はストーリーに沿うよう執拗に自白させる。こういう取調べや自白重視のあり方は前々から問題とされています。
海外へ逃亡したカルロスゴーンもこういう「有罪ありき」の日本の司法は問題だと指摘していました。
ご最もです。
この事件で思った怖いところ② それぞれが忠実に仕事をしただけ
この冤罪事件で思い起こすのは、第二次世界大戦中、何百万人もの罪のないユダヤ人をガス室に送り込んで虐殺したナチスドイツです。
大量虐殺の中心となったのはアドルフ・アイヒマンという人。
ハンナ・アーレントという哲学者が彼の裁判を傍聴して書いた「イエルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さ」という有名な報告があります。
裁判が始まる前、こんな恐ろしいことをやってのけたのはどれほど冷酷な悪人なのだろうと人々は想像していました。しかし裁判で見た彼の姿にショックを受けます。
小柄で初老、頭が禿げて気の弱そうなどこにでもいる「普通の人」だったからです。
彼は冷酷な極悪人でも悪魔でも何でもなく、家族を愛し、職務に真面目な官僚でした。本当に、どこにでもいる真面目なサラリーマンです。
上からの命令に忠実に従い職務をこなす
大量虐殺というとんでもない犯罪の正体は、ごく普通の私たち誰もが持つこの性質でした。大量虐殺は、ごく普通の人が考えることをやめて疑問を抱かず真面目によく働いた結果、おこったのです。
無思考になることの怖ろしさを伝えるこの本。
何十年たっても読み継がれる、一度は読んでおくべき名著です。
今回の冤罪事件もこれに通じるところがあると思います。
滋賀県の警察官たちは、悪意で西山美香さんを犯罪者に仕立て上げたわけではなく、自分達の職務をただ忠実にこなしたのでしょう。
それぞれの人が、それぞれの職務を忠実にこなした結果、無実の人が殺人犯として12年もの間、拘束されたのです。
目の前の職務に忠実な人。私のまわりもそんな人で溢れています。たぶん自分自身も。
ではこれは間違ってるのではないか?そう思った時、個人の力で変えることができるのでしょうか?
まわりからの圧力や空気、自分一人では到底変えられない大きな流れに巻き込まれている時、個人で抗うことができるのでしょうか?
私たちは誰しもナチスドイツのような悪人になる可能性があります。そして同じように誰もが、西山美香さんになる可能性も。
この事件で思った怖いところ③ 誰もが冤罪に巻き込まれる可能性がある
誰もが冤罪に巻き込まれる可能性がある。私がこのできごとで怖いと思ったことの3つめはこれです。
病院で患者さんが亡くなることは普通です。そういう場では、あってはならないけど、事故で意図せず人工呼吸器が抜けることもあるかもしれません。
そんな時、自分がたまたま勤務をしていた。
それだけで犯罪者に仕立て上げられるかもしれません。この事件、そういう意味でものすごく怖いなと思いました。
司法の問題に興味がある人にオススメはこちら。
日本の司法の闇に切り込むノンフィクション作品!警察、司法が「犯人」に仕立て上げられた人を裁いている間、1人の記者が真相に近づいていく。まるで推理小説を読んでいるようにおもしろい。一度読みだすと止まらなくなって最後まで読んでしまいます。
読んでいてこれが現実だなんて思いたくない!小説だったらいいのに!と思うけど、本当の話なんですよね。社会常識を疑わないこと、考えないことの恐ろしさがわかります。絶対に読んで後悔しない本です!
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